寄居虫女 ヤドカリオンナ 櫛木理宇

小説 comments(0) - こぶたのゆう

 

その女を、入れてはいけない。
先に待つのは壮絶な、家族同士の「共食い」だ。

平凡な家庭の主婦・留美子は、ある日玄関先で、事故で亡くした息子と同じ名前の少年と出会い、家に入れてしまう。後日、少年を追って現れたのは、白いワンピースに白塗りの厚化粧を施した異様な女。少年の母だという女は、山口葉月と名乗り、やがて家に「寄生」を始める。浸食され壊され始める家族の姿に、高校生の次女・美海はおののきつつも、葉月への抵抗を始め……。
「なぜ、わたしのうちが狙われたの。教えて」
「とてもいいおうちだと思ったの。それだけよ」

2014年8月25日 角川書店

その家は父子家庭でした。お父さんは再婚せずに息子と二人三脚でこれまでやってきて、息子はとても愛想がよくて、野球部で、大学は国立にストレートで合格。お父さんは教頭まで務めて定年退職しました。厳しそうだけど真面目なお父さんと、出来のいい息子。そしてその息子の結婚相手は、綺麗で気立てのいいお嫁さんでした。結婚したのを機に家を二世帯住宅に建て替え、順風満帆でした。結婚して1年くらいした頃、息子は単身赴任となってしまいます。舅と嫁の2人だけの生活となってしまいますが、2人の間は特に問題はなく、家も完全世帯分離タイプなので心配もありません。ところが近所の人たちはある事に気づき始めます。みんなその女がいつからいたのかわかりませんでした。気づいたらいたという感じです。その姿は特に異様でした。朝の6時から地肌の色がわからないくらいの厚化粧をして、肘のところまである手袋をしています。すごい厚化粧なので年齢不詳です。住み着いたというよりは、食らいついたみたいでした。最初のうちはお嫁さんも抵抗しましたが、肝心の舅がその女を気に入ってしまっていてどうにもなりません。なので警察も民生委員も手出しできません。息子はなかなか帰ってこれず、家の中はどんどんおかしなことになっていきました。そして居候が増えます。女の弟だという事でしたが、誰も信じていませんでした。若いチンピラみたいな男です。お嫁さんはみるみる痩せていきました。近所の人たちは見るに見かねて、お嫁さんにしばらくあの家から出た方がいいとアドバイスしました。しかし「私があの家を守らないと」と頑張っていました。半年後、お嫁さんの実家の人たちがやってきてお嫁さんを引き取っていきました。ガリガリに痩せて、髪も半分くらい白くなっていたのです。お嫁さんのものは、服1枚でさえ持ち出せなくなっていました。いったいあの家で何があったのでしょう? 女と若い男はそれから半年くらいあとまでその家に住んでいたようです。でもある日、ふと前触れもなく姿を消しました。年の暮れになり、お正月休みを取って息子がやっと家に戻ってきました。そうしたら、座敷の押入れに、お父さんの遺体が隠されていたのです。

そして舞台は皆川家に移ります。皆川家は多くの問題の種を抱えていました。幼稚園の野外授業の時にトラックに轢かれて死んだ息子の智未の悲しみから良き妻・良き母を放棄し、精神的にかなり不安定になっている妻の留美子、毎日仕事、仕事で家に帰って来ることも稀で、帰ってきても何も手伝おうとしない夫の孝司、無口でおとなしいだけの長女の琴美、どうしても可愛く思えない次女の美海、精神年齢が小学生で止まったような我儘一杯に育った三女の亜由美。そんなピリピリした家族の状況の中、ある朝、玄関先にやせ細って裸足の5歳くらいの男の子を留美子は見つけます。おしっこを我慢していたのです。男の子の名前は朋巳。どうやらお母さんが行方不明なこの男の子を、留美子は運命の出会いかのように感じ家の中に入れて、母親が現れるまでの間面倒を見ると家族に宣言しました。朋巳と一緒に生活し始めた留美子は精神が安定してきて、家族がその状態に救われる思いでした。そして3人の娘は三者三様に、この生活をいいことだと思い始めます。そしてその後現れた母親は、異様なほどの厚化粧で覆われた、山口葉月となのる女性でした。

最初この小説のキャッチコピーから、見ず知らずの女が家の中に住み着いて、家族を翻弄したりしてトラブルを引き起こすという、スリラーものだろうな、という感じで読み始めました。それほどの期待はしてなかったんですが、山口葉月という女がどういう風にこの家族を破滅させていくのか、という手段がかなり細かく語られていって、その度合いが徐々に危険なものに変貌していく様子がすごくスリリングでした。そしてその合間に(各章の間に挿入されます)過去の被害者の関係者が、彼女を追ってその他の被害者に事件の様子を聞くという物語が入るんですが、そこで少しずつ明らかになる恐ろしい破滅の状況です。トラブルを起こすどころではなくて、ある被害者は妻と2人の娘を殺害して、風呂場で遺体をバラバラにして細かく砕き、少しずつ捨てていたという現場を発見されたりと、親子、兄弟でさえ殺し合いをするような状況に変貌させていく姿はもうホラーです。問題の種を多分に含んでいる皆川家の、その問題にすごく誘惑されるような餌をまいて、DVのように暴力期とハネムーン期(暴力の後にとても優しくなる状況がくるそうです。そうすると暴力されてる方は、暴力は自分が悪いからだと思うようになる、という心理状況だそうです)を交互に織り交ぜて家族の1人1人を狂わせていきます。そしてラストは、びっくりの展開。終盤辺りから始まる、よくわからない展開が、実は衝撃のラストの伏線になっているのはすごいです。ジャンルとしてはミステリではなくてホラーだと思いますが、これはすごい傑作だと思います。

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