聖女の島

小説 comments(0) - こぶたのゆう

 

多くの人から絶賛されている皆川博子の『聖女の島』です。第一級の長編ミステリという評価もありますが、私はどちらかというとミステリよりはスリラーの方が近いんじゃないかと思います。舞台はほぼとある島に限定されていて、ある意味クローズドサークルの設定になっています。8歳から14歳の不良少女が更生のために収容される施設がこの島に教会の運営で作られる、そしてその最初の指導者として矢野藍子という女性が赴任してくるといった物語です。

矢野藍子は修道女(マ・スール)に助けを求める手紙を出します。この施設には8歳から14歳の少女が更生施設で暮らしていました。3つのホームに分かれてそれぞれ1組づつの仮のお父さんとお母さんの指導のもと、社会に正しい人間として復帰するための訓練を受けるのです。ところが事件が起こりました。船を入手した3人の少女が島を脱走しようと計画し、船は転覆、少女たちは死んでしまったのでした。さらにその他の少女はホームに火をつけてしまいます。そしてかつては炭鉱の島として栄えていたものの、現在は廃墟となっているアパートの群れの中に姿を隠して暮らしているのでした。
マ・スールを迎え入れた藍子はその姿が死んだ姉にすごく似ていることにびっくりします。でも自分を助けに来てくれたマ・スールです。彼女は今のこの島の現状、そして姉の事などをマ・スールに話します。しかし事件の事はあまりにも曖昧としていて、何が起こったのかあまりよく覚えていませんでした。教会がホームを修復してくれて、更生施設は再開しました。子どもたちも素直に集まってきましたが、人数を数えると31人。これはこの施設が開始されたときと同じ人数です。そんなはずはありません。確かにこの中の3人は死んでいるのですから。でも誰が死んだのかは覚えていないのです。すべてを初めからやり直したい、やり直せるはずだと藍子は精力的に活動を始めます。マ・スールはその後ろで見守っています。あまりにも不自然なほど従順な子供たちの反応ですが、ある夜お母さんの1人が藍子のもとにある状況を報告に来ました。それは立ち入り禁止区域に子どもたちが飼っていた子豚が貼り付けにされていたのです。その体にはくぎが打ちつけてありました。

矢野藍子という、心に負を抱えた女性が自分の信念でこの更生施設を再開させようとする始まりですが、饒舌で話があちこちに飛んで一貫性のない、落ち着きのない様子が、子どもたちの行動やホームの大人たちによってさらに加速していく様子、そして事態が次第に不穏な感じになっていく様が非現実的なとある島でゆっくりと展開していきますが、それが別世界に連れて行かれたようで、読んでいる方も不安な気持ちにさせられます。そして藍子が次第にある影響力を島のみんなに持ち始めているようだと感じていく過程や、マ・スールの不自然な行動、そして誰も3人が死んだという事実すら認識していないようすが、終盤に一気に明らかになるところは怖かったです。この人の作品はこれしか読んだことがないんですが、これは傑作だと思います。

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