悪魔が来たりて笛を吹く

小説 comments(1) - こぶたのゆう


「宝石」 昭和26年11月号〜昭和28年11月号。

物語の中においては「黒猫亭事件」と「夜歩く」の間くらいに起こった椿元子爵邸で起こった連続殺人事件のお話です。冒頭の天銀堂事件は実際に起こった帝銀事件をそのまま使用しました。元々は「宝石」誌上で『落陽殺人事件』というタイトルで予告されていたものの連載されなかったお話で、太宰治の「斜陽」で当時注目されていた没落貴族を題材にしたものでした。その後フルートの案が追加されて作品として完成を見ます。

昭和22年9月28日、1人の女性が金田一の元を訪れます。それは一時天銀堂事件の容疑者となり、その後の4月14日に信州で自殺体として発見された椿英輔元子爵の娘・美禰子でした。お父さんが残したと思われる遺書に「これ以上の屈辱、不名誉には耐えられない」という言葉があり、確かに自殺したお父さんを確認したにも関わらず、お母さんの子たちが英輔と思われる人物を目撃していたのです。子は英輔は実は死んでいなくて、自分に復讐しようとしているのだと信じ切っています。そこで子と深い関係になっている(最初は子の主治医でした)目賀重亮が占いも出来ることから一家の者を集めて砂占いをしようという事になったのでした。美禰子はなんだか嫌な胸騒ぎがしてお父さんの事で良くしてくれた等々力警部に相談、警部が金田一を推薦したという訳でした。椿家は空襲にも何とか免れた大きなお屋敷で、そのため家が焼けてなくなってしまった親戚たちが同居するという状況になっていました。椿家には子、美禰子、女中のお種、書生の三島、子の乳母の信乃、目賀、子の兄の新宮利彦の家族は、利彦と妻の華子、息子の一彦、子の伯父の玉蟲公丸と妾の菊江がいます。その夜計画停電の時間を利用してスタンドの明かりを頼りにしての砂占いが催されることになりました。ところがスタンドの電池切れから真っ暗になってしまい、停電が終わって明かりがついた時砂の上に火焔太鼓のような模様が出ていたのです。何名かのものはその模様を見てとても驚いていました。さらにその時2階からフルートの音色が聞こえてきました。急いで駆けつけてみると、それは停電を利用したレコードプレイヤーのトリックだったことがわかります。しかしそこにかけられていたフルートのレコード「悪魔が来たりて笛を吹く」は子がみんな捨ててしまった筈です。子の日はこのままお開きとなり金田一もいったんは帰ることになりました。しかし次の日の早朝、美禰子から電話がかかってきました。それによるととうとう椿家で殺人事件が起こったというのです。駆けつけた金田一が目の当たりにしたのは、あの砂占いをした部屋で血塗れになって首を絞められて殺された玉蟲公丸の死体だったのです。そしてなぜか火焔太鼓が赤く血で描かれていて、さらにはこの部屋は中から鍵がかけられているという密室だったのでした。

横溝正史の作品の中で最も完成度の高いのは何かと考えると、わたしは「獄門島」だと思います。「悪魔の手毬唄」は雰囲気や物語の展開はいいのですが、謎の構成そのものは普通でした。「八つ墓村」は犯人探しものの要素はきちんとしていますがやっぱり雰囲気を楽しむ作品としての評価の方が高いと思います。そしてこの「悪魔が来たりて笛を吹く」ですが、この作品に関していうと金田一耕助の推理はあまり前面に出ていない描き方がされています。どちらかというと刑事ドラマのように足で真実を探していく、という展開のお話で、それによって読者も少しづつ真実が判明していくという流れになっています。その為金田一と同じくらいのスピードで何となく真実がわかってくるという内容になります。ですので最後にみんなを集めて「さて犯人は?」という探偵ものの定番からすると物足りなさを感じるかもしれません。実際わたしも読んでてあんまり推理らしいものはなかったなあという印象を受けました。だからといってつまんない訳ではありません。金田一が出川刑事と一緒に神戸から淡路島にかけて椿英輔の足取りを追いかけていく過程で、椿元子爵を自殺に追い込んだ「これ以上の屈辱、不名誉」が何なのかが次第に明らかにされていくところはスリルがあってとても楽しめます。そういう所から、この「悪魔が来たりて笛を吹く」はこの捜査によって事件の隠された真相が次第に明らかになっていくのを楽しむ作品なのだと思います。なので密室のトリックにしても殺害方法にしても犯人の意外性にしてもそれほどビックリするものはありませんでした。それよりも注目する部分は犯人の動機ときっかけとなったある要素。これはかなり異常というかアブノーマルな世界で、現代ならありがちだと思いますがこの小説が連載された昭和20年代では読んでた人はその内容にビックリしたんじゃないでしょうか。そういう意味でこの小説は真相がビックリする(特に犯人の動機)ものとしてはとてもいいと思いました。
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